世の中には、専門教育を受けた人からすると「?」となる一般向け本が跋扈している。
「宗教」の本もまた然り。
そんな中で、他人にもお勧めできる本は本当に数少ない。
今回紹介する『宗教と現代がわかる本』は数少ないお勧め本である。
ちょっとこれから宗教(学)について学んでみようか、という人に「サブテキスト」として丁度良い感じだと思う。一応足を突っ込んだ人間からすると、あくまでサブで、メインは学術的に評価の定まった本を薦める。(一例を挙げるならば、岸本 英夫著『宗教学』など)
一般に評価の定まった本となると事象の情報が古いので、宗教の「今」を知りたい人にはもってこいである。値段も内容・量(300ページ超)の割りには格安の1冊1600円である。
2007年版の初版1刷の帯には「宗教を知らないと問題の本質は見えてこない」や「アカデミズムとジャーナリズムから「宗教」がわかる最高の執筆陣」の文字が並んでいる。少々煽りすぎの気もするが、これ位しないと一般書では売れないのかもしれない。
発行形態は書籍ながら年刊で実際には、書籍名の最後に発行年が西暦で入る。2007年春から発行され、2007年版はその年の夏に佐野は本を手に入れた。これまでの一般向け宗教本の定石を打ち破る学術書の色合いが濃い本書が、毎年平凡社という良い意味で普通の出版社から出し続けれるのか疑問に思い、最初の数年間はその真面目すぎる内容ゆえに絶対続かない判断していた。(失礼)
だが、ネットの書評でもある程度の評価を得られており、今回無事5冊目が出たので安心して紹介できる。
内容は特定事象に対しての巻頭特集と各宗教分野からのテーマ・リポート、去年の宗教界を振り返るデータの構成となっている。特集は、
2007年 特集設定は無し。論点として「慰霊と追悼」「宗教教育」「皇位継承」「生命倫理」
2008年 宗教と医療
2009年 皇室と宮中祭祀
2010年 宗教と映像メディア
2011年 信仰と人間の生き方
と宗教と現代がどう関わるのか、興味深い論考や対話が収められている。
執筆は主にジャーナリストや宗教学者が担当しているが、テーマ・リポートのページでは標準で、一人4ページとコンパクトに要点が収まっているので隙間時間に読むことができる。無論、その字数では十分に事象を説明できる容量ではない場合は、欄外でレファレンスの紹介をしている。この辺りの専門書との橋渡しがこの書籍が上手な所でもある。
ちなみに最新刊である2011年版の発行日が3月11日であり、特集との関係は偶然とはいえ凄いと個人的に思う。
『宗教と現代がわかる本 2007』の巻頭に編集責任者である渡邊直樹氏が「刊行にあたって」の言葉を寄せている。この言葉が本書をよく表しているので一部抜粋して紹介する。
なお、全文はamazonのページに掲載されている。
〔前略〕
しかし、日本では宗教について学ぶ機会を持たない人がほとんどのため、これらの問題〔佐野注:日常生活から生命科学や政治レベルまでの宗教との関わり〕に直面しても、きちんとした理解も説明も議論もできないままでいるのではないでしょうか。その間に、精神的な空虚さを感じている若者たちを吸収しようとする動きや集団も見え隠れしています。テレビの中では「霊能者」番組が相も変わらず高視聴率を稼ぎ、雑誌では「占い」が人気をよんでいます。オウム真理教教祖の麻原死刑判決が確定しましたが、オウム事件から私たちはいったい何を学んだのでしょうか。
現代の日本人の宗教に対する意識は、狭義の宗教には無関心、組織としての教団には違和感を持ちながらも、広い意味での宗教文化、あるいは精神文化への関心は高まっているようです。戦後の日本は、宗教について議論することや、精神的なものについて教育の中でとりあげることをタブー視してきました。私たちが心の中に抱く精神的なもの・宗教的なるものへの関心にまともにこたえ、宗教についてさまざまなアプローチをしてオープンに語るための場を提供することが必要だと考え、この本を企画いたしました。
〔後略〕
本企画がこれからも安定して刊行できることを願いつつ、一般書として素晴らしい品質を保持しているので「逸品モノ」に推しておく。