プラチナ万年筆から「インククリーナーセット」なる商品が販売されている。
名前の通り、万年筆に滞留したインクを除去することが出来る製品で、化学作用を利用するため、洗浄液に漬けこむだけという便利な製品である。
佐野も発売から1ヶ月のうちには入手をしたのだが、残念ながら今日まで利用する機会がなかった。
たまたま、残念な保存状態の万年筆を発見してしまったので、簡単ではあるがレビュー。
今回、試験対象になったのはペリカン製「ペリカノ」である。軸がスケルトンで内部のインクの様子が確認しやすいという理由もあり、これを選んだ。
今回のペリカノ、誤って3ヶ月ほど秋の間、車の中に放置してしまった。当然ペン先はドライアップして書けず、カートリッジに半分程残っていた筈のインクもほ
ぼ全量が蒸発・濃縮しているという、実に悲惨な状態になっている。どこまでインククリーナーの力で洗浄できるか、試行の記録である。
まずは、事前処理として首軸を水洗い。
効率よく給排水を行うために、ペリカン純正コンバーターを使用。カートリッジ式万年筆の洗浄プロセスは説明するまでもないので、大幅に省略。
幸い、入れていたインクが色彩雫の「月夜」という染料系だった為に、水だけでもそれなりに落ちるが、スケルトン軸故に、軸の内部で固着して落ちていない所が気になる。また、ペン芯も洗浄で落とせなかった所が何か所か残っている。
ここからは、インククリーナーセットの出番である。まずは、専用洗浄液の用意。
説明書には製品の濃縮洗浄液を10倍希釈して使用すること、となっているので、定量の水道水100mlで希釈。
希
釈した洗浄液は強アルカリ性なので、取扱注意。今回は、洗浄液の化学的安定性維持などを考慮して、PYREXの容器で希釈・洗浄した。電子レンジ対応耐熱
ガラス容器などはPYREXであることが多いので、地方でもさほど難しくなく入手できるだろう。最初は容器の清浄性の観点から、紙コップを利用したが、紙
の継ぎ目から連続的に洗浄液が滲み出してきたので紙コップでの洗浄は止めた方が良いだろう。佐野と同じように滲み出す事例が他サイトで報告されている。
希
釈した洗浄液が用意できれば、後は首軸を沈めておくだけ。説明書によると、程度の軽い汚れならば、2~3時間で洗浄が完了するという。同説明書によると、
想定している洗浄時間は24時間程度のようだ。酷い汚れの場合は、製品に付属の簡易スポイトを使い、ペン芯に洗浄液を循環させると良いらしいが、今回は使
用せず。
今回の試験で興味深かった点の一つとして、水では全く落ちなかった箇所のインク汚れが、洗浄液に浸けた瞬間に浮かび上がってきたこと。数時間後には無色透明だった洗浄液が薄くインク色に染まっていた。
数
時間程度では、まだ固着があったので、24時間放置。少しづつ固着が溶けているがまだ不完全なので、24時間追加。計32時間。さらに24時間、計76時
間。結局、76時間洗浄液に浸したにも関わらず、一部の固着は完全には除去できなかった。洗浄液も放置で、液温が低く活性が低かったのだろうか。説明書に
も「固着は除去できない場合があります。」とあるので、そのようなものと諦めていたが、数日後に新たな発見が。
固着場所をルーペで拡大し
て観察してみると、クラックのようなものが見える。詳細に解析を行った訳ではないのだが、このクラックの微細な隙間にインクが侵入し、今でも固着のように
見えるのではないだろか、という仮説が成り立つ。これならば落ちない・落ちにくい理由も腑に落ちる。
さて、このインククリーナーセット、標準使用5回分で1200円位と毎回のメンテナンスに使える程安くは無い。
しかし、それを差し引いても、長年使い込んで汚れたスケルトン万年筆が新品のように蘇ったことを考えると、なかなかの逸品である。
特に、デモンストレーターに代表されるような、軸の透明感を生かした万年筆には相性がより良いだろう。
一方で、液性が強アルカリという点を考慮すると、ヴィンテージ万年筆や記念モデルといった高価な万年筆を洗浄する際はよく考えて使った方が良さそうである。
結語としては、大変満足する性能を発揮してくれた。惜しむべきは、まだ認知度が低く、文具店の店頭に無い場合があるということと、頻繁に万年筆を使うユーザーでは1梱包5回分は少ないように感じたが、価格の兼合いもあり10回分などの製品化は難しいかもしれない。