死を見つめる心

東京大学教授で日本の宗教学に偉大な功績を残した宗教学者、岸本英夫。
氏が逝去して、48年が経つがその功績は未だ色褪せていない。

そんな岸本宗教学の精華ともいえるのがこの『死を見つめる心』である。
黒色腫に侵されることによって、宗教を客観的に見る立場から主観を含んだ立場へと変化させた。人が変わった、という表現があるが、ガンと告知を受けた後の氏もまたその一人である。欧州講演、図書館長就任、遺稿となった『世界の宗教』の執筆開始など激務に身を晒すことによって、ガンと対峙したのである。

「死を別れの時とみるならば、日常生活の別れの場合にも人々がそうするように心の準備をしておく必要がある。平生のその時その時の経験を、これが最後のものであるかもしれないという気持ちで、よく噛みしめておかなければならない。そのようにして、十分に心に納得させておけば、最後の死の別れが来ても、人間はその悲痛に耐えることができる。死を別れと見るということは、毎日々々、心の中で別れの準備をしておくことである。この考え方も、死に立ち向かう自分の心の大きな援けになった。」
  ――岸本英夫「癌の再発とたたかいつつ」より 『死を見つめる心』所収

無名の人であれ、有名な人であれその闘病記は壮絶である。そこに当人の生死観が滲み出るからであろう。
だが、氏の場合には、もう一つの視座があった。死を扱う宗教を研究する学者としての学問の立場から死を分析する視座である。

震災を契機に、大学で学んだこととを重ねつつ、あの頃にこの方面からもっと勉強しておけば良かったと後悔しながら本書を読んだ。自分の言葉では、この岸本宗教学の面白さを到底伝えることができない。興味を持たれた方は、入手性も良い文庫になった本書を手に取ってほしい。


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