最近、伝奇系ADVや小説で神道(系)を内容に含むものが増えている。
あまりに宗教的に誤った内容である場合が多く、黙認できる限界を超えたので、エントリーにしてみる。
(註:以下の文章は一般向け、かつ正確性を期すると長くなりすぎるので、かなり省略している箇所がある。専門教育を受けた方は優しい心で読んで頂けると幸い。)
まず、佐野(ID:Lusaka)が問題視している点
・そもそも現代の日本では宗教知識を公教育で全く教えていない。一応、高校の倫理科目で世界三大宗教を教える場合もあるようだが、教育ではさわりだけ。また、正しく教えているという保証も無い。(註1)
・いい加減な日本神話本(古事記と日本書紀を一冊の本にして解説したような類の本)が跋扈している。古事記と日本書紀はその意義も内容、細かい点では学会の成果が異なるので分けて解説すべきだが、一冊にした為、誤りも多い。というより、学際的に正しい論述の方が少ない場合が少なくない。(註2)
・初心者が手を出すにはあまりに危険な本(例えば、神代文字や「ひふみ」神示など学術評価の対象となっていないもの)が多く流通している。表現の自由があるので強くは言わないが、この手から入ると将来痛い目にあう可能性が高い。
・神社神道が一般に教化活動を積極的に(他宗教と比べて)行っていない。(註3)
・日本では「宗教」を扱う高等教育機関が圧倒的に少ない。(各々の神学だけでなく宗教学を含む)(註4)
以上のような背景により、世間には誤った宗教知識が氾濫している。
例えば、宗教文化士の試験問題例10問の内、7割方正答を選べる(択二なので)日本人はどれ程いるだろうか。(註5)ただし、回答に専門知識が必要な問10を除く。これ一つをとっても日本人の宗教知識の貧しさがよくわかる。
やや脱線気味であるが、日本神話について。知らない外国人に正しく内容、編纂の経緯や意図を伝えられる日本人は極めて少数派である。
このような環境の中で冒頭の誤った内容が広がる。
彼らシナリオライターやイラストレーターの罪深い所は中途半端な知識で一応の対価を得ている所にある。そして、それがあたかも正しい情報であるかのように無勉強な一般人を媒介して、世間に誤った内容が伝播する。
大麻で修祓(註6)を行う巫女などはその良い例である。一社の故実(註7)で全く無いとは言わないが、それは極めて稀である。また、シナリオ上に出てくる神々についても、間違った理解の元に記述されている例が多い。記紀をつまみ食いした結果、内容に不整合が見受けられるケースもある。
では誤りを糺すにはどうすれば良いか。
平均的な日本人のレベルが低い為、ライターのレベルが低くなると、ある人が述べていた。これは一理あると思う。
まず、宗教に対する色眼鏡を取り去ることだと佐野は考える。例えば、危険一色で報道されているイスラームという宗教(実際には生活様式を定めたルールに近い)が、狩猟民族で過酷環境であるあの灼熱地域の安定に如何に役立ってきたかを考えると分かりやすいと思う。
また、日本国内における宗教報道は宗教界の不祥事か季節を感じる伝統宗教の話題、靖国問題に偏向している。先の阪神淡路の震災でも社会貢献を行った新宗教は悉くメディアから黙殺されている。(註8)
その上で、少なくとも日本人的価値観の成立に影響を与えた宗教や思想(神道や仏教、儒教)の基本的な知識を学術的に評価の定まった正しい本で得ること。
最後に時間はかかるが、日本人の宗教知識の底上げが必須であろう。そして、宗教について他人と忌憚なく話が出来る社会を作ることである。これには、宗教知識の誤りを糺すという意味もあるが、カルト(正しくはセクト)対策や日本の宗教政策に対する誤解解消や問題点の是正(註9)という意味も含んでいる。
以上、浅学ながら私見を述べさせていただいた。
註と改版履歴
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初版
某氏の発言から勢い余って作成。佐野の日頃の鬱憤に良い意味で火を付けてくれた某氏に多大な感謝を。
第2版
追記及び平易な言葉へ差し替え。誤字脱字や表現の変更。註を新規追加。
第3版
全体の表記を若干変更。註8、9を追加。
註1:そもそも担当教員が宗教の専門教育を受けた人ではないので質を期待できない。某宗教の信者に対して発言すると軽蔑語となる言葉を普通に教えている教員もいる。佐野的には免許更新制なのだから、担当教員には宗教の「今」を更新時に追加で学ばせるべきと考える。
註2:解説本はまず奥付にある参考文献を確認。これでハズレの本を購入するリスクは大幅に低減できる。参考文献に文庫本が多い本は注意した方が良い。文庫本では、字数の関係から単行本より内容が薄い場合が多い。また、日本書紀を扱った部分では一書の扱いが極めて雑か無視されることが多い。
註3:「言挙げ」せずの宗教と言われているが、それ以外にも諸問題から積極的な教化は行われにくい。
註4:キリスト教系大学でも神学を学べる割合は少ない。仏教系は最近になって学部復活の動きあり。神社神道系は学ぶ気があれば学べる。問題は全国で2校し
か無い点。宗教学については学ぼうと思っても、東京大学以外に選択肢が事実上無い。京都大学や東北大学でも不可能ではないが規模で見劣りする。
註5:「宗教文化士」が宗教の高等教育を受けた人向けなので、難易度が若干高めではある。特に社会常識では問10は解けないだろう。佐野としては、問1~8までは国際化した現代における一般常識と認識している。問9は稀に宗教学者が関連ニュースでコメントを求められる時がある。その時にこの学者は何者か理解する為にも、この程度の知識は欲しいと願う。
註6:祭りに先だって、参加者の罪穢れを清める行為。巫女は祭祀補助者という立場なので、原則として祭祀はできない。
註7:全国的に祭りの手順が統一化される明治時代より前のその神社独自の祭り方などを指す用語。
註8:石井研士 著『テレビと宗教―オウム以後を問い直す』 (中公新書ラクレ) 2008 参照。
註9:宗教法人は未だに全面的に免税である、といった類から政教分離の誤解や改正宗教法人法の新宗教に対する悪影響など。