国立国会図書館が進めている、非来館型サービスの一つに近代デジタルライブラリーがある。
主に、太平洋戦争以前の著作権保護期間が満了した資料をデジタル化し、インターネット経由で自由に閲覧できるサービスである。インターネット上から閲覧できるこの手のサービスは良くて目次までの公開が多い中で、本文へのアクセスの道を開いたことは評価できるであろう。
この近代デジタルライブラリー、ここまでの道程は決して平坦なものではなく、異体字を包括的に検索できるようにするための改修が公開と並行して行われるなど、まさに手探りという言葉が相応しかった。
さて、この画期的な近代デジタルライブラリー、実際にWebブラウザでアクセスしてみると、思いの外使い勝手が宜しくない。
ページ内の拡大や縮小、ページ送りなど基本的な閲覧機能は用意されているものの、紙と同じような直感的な操作が出来ないのが原因であるように思われる。ではどうすれば改善されるのであろうか。佐野は、タッチパネルに対応したUIを追加導入することを提案したい。例えば、拡大・縮小はピンチアウト・ピンチインがその代替となるであろう。ページ送りはスワイプが相応しい。
今までこうした、タッチパネル搭載ディスプレイは一部の業務用製品を除くとスマートフォン・タブレット端末に限定されてきた。大きくても5インチクラスのスマートフォンや7~9インチが主流のタブレットで、見開きでA4サイズを超える資料を閲覧するのは正直言って苦痛と感じやすいように思われる。
そのような現状で、意外なデバイスが現れた。Windows8のタッチ操作対応ディスプレイである。モバイルデバイスと比較にならない広い画面、マウスとの併用などそのポテンシャルは大きい。
一方で、公共性が強い図書館で特定のデバイスやOSを優遇することに否定的な向きも多いだろう。それらが足かせとなって開発できないのであれば、ならばAPIを公開して外部からツールが生まれるのを待つというのも、悪くない戦略のように思う。
以上、利用するにあたってのUIの問題を紹介した。
次に挙げるのは資料の問題である。
近代デジタルライブラリーではその趣旨から、著作権の保護が満了した物が多い。
著者が個人で図書の場合、満了となるのは没後50年経った最初の1月1日である。
従って、一般人の感覚から言えば「かなり古い」資料となる。これらの資料は劣化を防ぐためにマイクロフィルム・マイクロフィッシュに変換されていた物も少なくない。佐野が利用する資料を見る限りでは、マイクロフィルム・マイクロフィッシュを引き延ばした際に特徴的なノイズが含まれている物が存在した。どうやら一部の資料は原本を直接スキャンしているのではなく、あいだにマイクロ資料を挟み込んでデジタル化しているようだ。
原本からでなく、マイクロ化したメディアを通すことで確実に資料の解像度が低下しノイズが増えていく。原本が印刷技術が未熟だった時代の物ならばなおさらだ。
せっかく、コストを投入してデジタル化しても、肝心の資料が文字の掠れや潰れで読めなければ、価値は半減してしまう。
元々、資料のマイクロ化には保存スペースの削減と資料保全という意味合いがあったはずだ。前者はともかく、後者については、デジタル化は専門の業者に外注が進んでいる。一般人とは異なり、扱いの知識がある業者ならば、原本を使っても、損傷を受けるリスクは十分に小さいように思われるのだが、いかがだろうか。
近代デジタルライブラリーは、国会図書館が推進する「壁のない図書館」を実現するための十分強力なツールとなることは間違いない。
デジタル社会に適応したサービスになって欲しいと心から願う次第である。